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 投稿者:足立和夫  投稿日:2009年 6月16日(火)02時38分40秒
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  会社で
足立和夫


机の電話が呻きはじめ身が強張る
受話器をとると
声を吸い込んだままになってしまい
キョックキョックキョックキョック
 キョックキョックキョックキョック
酷くどもる 吃音
極東倉庫です がすぐにはでない
わたしのなかの草男がすべてのそとを
拒絶しようと明滅するのだ
しかたがないので
鼻をつまんで気絶してもらう
会社のひとたちは軽くわらう
わらって緊張をほぐそうとするのだが
歪んで硬くなった頬のなかで
喉のおくから無口がせりあがってくる
机のうえに視線がさまよい
わらいを放散できない
話しかけてくるのだが
耳のなかで沈黙が膨らみつづけていた
椅子からずり落ちた草男は
なにかを低く喚き
ここからの脱走をかんがえるが
すべての精気が硬直し痩せたままだ
穏やかに息をひそめ
五年間居て辞めた
草男の汁の飛沫と湿った匂いが
さらに濃くなって
空にのぼり蟠(わだかま)っていく
緑色の闇 耳鳴りの深い空
時間が中途半端にちぎれたままだった
幻影かもしれないが
尖った誤解はつねに悩ましい
まるで吃音のように
こころは怪物なのでたえず発情して
生きがたく逝きがたい
ほとんどの時間を眠り込んでいる草男は
草の声でいった
空にのぼる蟠(わだかま)りは
放っておけば夜陰の河に流れてそれですむ、と
沈黙のための用意もしてみたが
孤独の底に落ち着くには
生涯の終息はいつも近すぎる
草の声はいった
草の葉のしたで生き抜いてしまえ
うまく隠れた者がよく生きるから、と
現れることだけがすべてではない
草の茎を折って汁を啜れば苦い
ひとの生は宇宙のなかで
燃える星に困惑し
謎のにおいを嗅いだままだから
そのまま終わるだけ
 
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